こんにちは、いいだりょう(@aviciida)です。
本日は待ちに待ったDropbox CEO Drew Houston氏の講演会でした。
50分くらいの短い講演でしたが、興味深い話がたくさん聞けたので、まとめて記事にしました。
日本語の同時通訳なしというかなり日本人に厳しい会でしたが、
この記事を読んでいただいたらほとんどの内容を把握することができると思います。
- 忙しい人のための簡単なまとめ
- 2018年に上場を果たしたDropbox
- 有名なMIT卒業スピーチについて
- プロダクトをコピーされることについて
- Dropboxの新プロダクトDropbox Paperについて
- おわりに(ちょっと不満)
忙しい人のための簡単なまとめ
- 上場前も上場後も大事なのは「お客さんをハッピーにすること」
- 上場前からあたかも上場企業であるかのような経営をしていた
- ベストな人材を採用しろ
- 自分が仕事に感じないくらい夢中になれるものを見つけよう
- 何事にも興味を持ち、フラストレーションを追求しよう
- 自分をインスパイアしてくれる優秀な仲間と時間を過ごそう
- 大学卒業までは「失敗の少なさ」が大事だが、卒業後は失敗の数は関係ない
- プロダクトがコピーされるのは想定内。どう対処するか考えよう
- より近代的な共同作業ツールのDropbox Paper
2018年に上場を果たしたDropbox
上場前後での変化
上場することはスポーツでいう「リーグが上がる」くらいにしか考えていません。常に「何が一番大事か」にフォーカスして会社を経営しています。
そしてその大事なこととは、「お客さんがハッピーであること」です。
会社が成功したかどうかを決めるのは私たちでも会社でもなく、お客さんが決めることです。
上場することによってメディアに出たり、株価を気にしたりということを気にしなければいけないことが多くなり気が散りますが、
いいプロダクトを作ってお客さんが幸せであることにフォーカスを当てて活動しています。
「なぜDropboxという会社が存在するのか」というのは上場前も後も変わりません。
上場前からやっていたこと
もちろん上場することによって株主をこれまで以上に気にしなければいけなくなることは間違いありません。投資家をハッピーにすることも大事です。
投資家は「成長していて」「利益を出している」企業に投資をしたいですよね。
そして上場するということは、その2点(成長・利益)がより目立つようになるということです。
これに関して、私たちは上場する何年も前からあたかも上場企業であるような経営を意識してきました。
- どのように成長へ投資するか
- どのように効率的・効果的にビジネスを運営するか
- どのように財務管理をするか
などといったことに昔から気をつかってきました。
だから投資家との関係に関しては上場前後で特に大きな違いはありません。
上場企業の組織の作り方
素晴らしいチームを作ることが会社をうまく経営することに直結します。
これは起業した当初から感じてきたことですし、今でも強く感じています。
今まだ起業していない人はあまり実感しないかもしれませんが、起業したらすぐに痛感すると思います。
会社の組織づくりにおけるチームの作り方や人材に関して、いくら強調してもし過ぎることはありません。
Dropboxを創業して間もない頃、投資家の人にこんな質問をしたことがあります。
「どうやったら成功する企業を作れますか」と。
そうしたら彼はこう答えました。
「10個やるべきことがある。
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ
- ベストな人材を採用しろ」
本当にこの通りだと思います。
たとえ自分がCEOであっても、会社で何か大きなことを成し遂げる時に自分の貢献割合は数%くらいにしかなりません。ほとんどの貢献はあなたが採用する人によってもたらされます。
大学に行っててよかったと思うのは、優秀な仲間に出会えたことです。
Dropboxで採用した最初の10人のほとんどが、創業者の友人ですから。
あなたも今座っている席の両隣の人と仲良くなっといたほうがいいですよ。後に一緒にビジネスをすることになるかもしれませんから。
有名なMIT卒業スピーチについて
まず前提をお話しさせていただくと、2013年のMIT卒業式でスピーチをするよう依頼されたのですが、何を話せばいいかあまりわかりませんでした。
そこで、『もし今の私が22歳(卒業生の年齢)の私に「人生のカンニングペーパー」を渡せるとしたら、何を書くか』というのをテーマで話しました。
キーワードは「テニスボール」「サークル」「30,000日」という3つがあります。
【感動】あなたの人生はあと何日?20代MIT卒経営者の心に響くスピーチ日本語字幕
テニスボール:自分が夢中になれることを探そう
テニスボールに込めたメッセージは「自分が夢中になれることを探そう」ということです。
犬と遊んだことがある人はわかると思いますが、人間がテニスボールを投げたら犬は夢中になってそのボールを追いかけますよね。犬はそれだけテニスボールに夢中で執着しているということです。
そして、あなたたちの仕事もそうであるべきだと思います。
周りの成功している起業家たちも、みんな自分の仕事に夢中になっています。
ここで2つ大事なアドバイスがあります。
1. ただやってて楽しいだけでなく、取り憑かれたようにやれるか(Not just enjoy, but be obsessed)
私はDropboxを創業する前に「Accolade」というSAT(大学入試のためのテスト)向けのオンライン学習サービスを提供する会社を起業しています。
しばらくそのビジネスをやっているうちにあることに気づきました。
「自分の情熱は本当は”社長”になることだった」ということです。
会社を作って、パーティで「CEO」という肩書きがある自分の名刺を配るのが楽しかったんだ、と。
もちろんビジネス自体も楽しかったのですが、徐々に別のことに気を取られるようになっていきました。
それが「ポーカーbot」を作ることです。
簡単にいうと、オンラインポーカーゲームを自分の代わりに自動でやってくれるプログラムです。
セキュリティや人工知能などに関する非常に難しいチャレンジだったのでとても作ることを楽しめましたし、趣味みたいな感じでした。
ここで気づきました。
自分がやっていたSAT学習のビジネスに「楽しさ」はあっても「執着」はなかった、と。
ただやっていて楽しいだけじゃなく、時間を忘れるくら取り憑かれたように夢中になれることを探しましょう。
2. 社会が必要としているものでなければならない
ポーカーbotを作ることには一つ問題がありました。それは「社会に対するインパクトが少ない」ということです。
たとえ完璧なbotを作ったとしても、究極的にやっているのは「ポーカーが下手な人からお金を巻き上げる」ということです。
これではあまりインパクトがなくて、やりがいが感じられなかったので途中でやめました。
でもDropboxのコンセプトである「人々の生活をクラウドに持っていく」というのは非常にワクワクしたし、人々の生活を便利にする確信があったので、ここまでやってこれました。
このコンセプトは1と2を両方満たすものだったのです。
自分にとってのテニスボールの見つけ方
自分にとってのテニスボールを見つけるのは難しいです。
「自分のテニスボールを見つけるための5ステップ」のようなものがあればいいと思うのですが、なかなかそういったものはありません。
しかし、意識するべきことは2つあります。
1つは「何事にも興味を持つ」ということです。
何かに興味を持てばそこからアイディアが生まれるかもしれないし、そこから派生して新たなアイディアも生まれるかもしれません。
私自身、最初はコンピュータゲームを作りたくて起業家を目指し始めたのですが、その過程で別の面白いことにたくさん出会えて今があると思っています。
もう1つは「自分のフラストレーションを追求する」ということです。
Dropboxのアイディアもここから生まれました。
最初に起業した会社をやっている時、会社のデータはすべてUSBメモリに入っていて、会社以外で仕事をするときにはそれをいちいち運ばなければいけませんでした。
昔からしょっちゅうUSBを忘れていたのでフラストレーションが溜まっていたのですが、
極めつけとして、ボストンからニューヨークの4時間あるバス移動の際にUSBを忘れてしまって、4時間のバス移動の時間を無駄にしてしまったことがあります。
この時に「もう2度とこんな目にあいたくない」と思い、仕事ができないバス移動の間にかろうじて繋がるwifiとテキストエディタを使ってこの問題を解決するコードを書き始めました。これがDropboxの始まりです。もちろんこんなに大きくなるとは思いませんでしたが。
サークル:優秀な仲間と一緒に時間を過ごそう
最も長い時間を共に過ごす5人の平均があなた自身である、というのは本当によくいったもので、皆さんもこれは意識しておいたほうがいいです。
あなたをインスパイアしてくれたり、より良い人間になろうと思わせるような人と時間を過ごすことをオススメします。
私自身もMIT在学中はそれを意識していました。
MIT Entrepreneurs Clubというクラブがあり、そのメンバーとほとんどの時間をともに過ごしました。
その仲間とは非常に競争的な仲で、一見ネガティブに見られるかもしれませんが、意識的にポジティブに捉えていました。
例えば私が仲良くしていた仲間の1人は、私よりも1年遅く会社を始めたため経験も少なかったのにも関わらず、すぐに投資家との豪華なディナーに招待されて、スルスルと成功していきました。嫉妬もしたし「自分は何をやっているんだ」と自分を責めることもありましたが、彼の存在のおかげで私自身もっと頑張ることができたのです。
優秀な仲間は常に自分にポジティブな影響を与えてくれます。
私の場合は、仲間にモチベーションを与られただけでなく、私の共同創業者Arashも紹介してくれました。Kyle VogtというTwitch(旧Justin tv)の創業者が私の仲間の1人だったのですが、私が必死にDropboxの共同創業者を探している時に、宿舎仲間のArashを私に紹介してくれたのです。
30,000日:あなたの人生は全部で30,000日しかない
もともと、どこかのサイトで「人生は30,000日しかない」というのを見て知ってはいましたし、最初は「当たり前じゃん」としか思っていませんでした。
しかしY combinatorに採択されてカリフォルニアに引っ越してきたとき、興味本位で自分に残された日数を調べてみたのですが、なんとすでに8,000日も消費していることに気づきました。(当時24歳)
まさか8,000日も終わってるとは思わず、とても衝撃を受けました。
生きる日数に関しては「やり直し」はありませんし、それ以来毎日を大事に生きようと思っています。
大学卒業までの生き方とそれ以降の生き方の違い
大学卒業までの生活と大学卒業後の生活は全く違います。
いい大学に入学したからといって人生成功するとは限りません。なぜなら大学卒業まで大事だったことが、卒業後は大事でなくなってしまうからです。
大学卒業までの生活は「次のステップに準備する」ことです。1年ずつフェーズが変わり、毎年次のフェーズの為に準備をする生活です。(日本では小学校1~6年→中学校1~3年→高校1~3年→大学1~4年)
そして次のステップに進むために気をつけることは「いかに失敗を少なくするか」ということです。GPAなんかは「”満点”ー”失敗した数”」ですからね。
でも大学を卒業した瞬間そんなものは関係なくなります。
「エンジニアリングで修士・博士をとり、Googleで働き、ちょっと規模が小さい企業で働き、スタートアップで働き、そして起業する」みたいなステップを踏む必要はありません。
起業したければ今すればいいのです。
もし起業したいけど準備ができてないという場合はスタートアップにジョインするのがオススメです。インターンとしてでも、正社員としてでも。
プロダクトをコピーされることについて
スタートアップをしている以上、常に競争にさらされるという事実は変えることはできません。しかし競争に対するあなたの考え方は変えることができます。
よくこんな不満を耳にします。「アイディアは僕らが最初に思いついたのに、今はいろんな企業が真似し始めて、やってらんないよ」と。
正直にいうと、こんなことは消費者にとって全くどうでもいいことです。
競争があるのは当たり前です。コピーされるし、それを既存プラットフォームとバンドルして便利にされるし、それをタダで提供されることもあります。
そんなことを嘆いても意味はなく、常に競争相手よりも良いプロダクトを作ることと、自分のプロダクトに違いを出すことを意識してください。
例え自分のプロダクトがコピーされたとしても、それが社会や消費者が求めている価値あるものであり続けられれば、なんら問題はありません。
スタートアップにおける戦略を学ぶために私は多くの本を読みました。その中でも一番参考になったのはこの本です。ぜひ読んでみてください。
Dropboxの新プロダクトDropbox Paperについて
先ほどフラストレーションを追求するという話をしましたが、Dropboxを創業した当初と比べると、フラストレーションもだいぶ変わってきました。
創業の2007年はデータの持ち運びが課題でしたが、今となってはみんなクラウドを使うようになりました。
一方でDropboxは成長し、従業員の規模が100人、1,000人と増えていき、私自身のアテンションが分散するようになっていきました。
大きい規模で組織を運営すると、生産的でないことに時間を取られ、クリエイティブなことに時間を割けなくなってしまいます。
カレンダーを開いてもミーティングばかりだし、メールボックスには大量の未読メールがあり、大量の必要ない情報のせいで本当に必要な情報が見つけづらくなってしまいます。
「これだけ便利な世の中なんだから、テクノロジーがもっと人間の働きやすい環境を作れるはずだ」と思い、それが新たなミッションになりました。
Dropbox Paperはそんな思いから生まれたプロダクトです。
数十年前にデザインされたofficeのwordやGoogle Docsとは違い、ゼロベースで考えて生み出された2018年の時代の共同作業ツールです。
授業のグループワークなどで役立つと思いますので、ぜひ使ってみてください。
Dropbox Paperはこちら
使い方の詳細はこちらなどを参照
おわりに(ちょっと不満)
DrewさんのMIT卒業スピーチは非常に有名で、自分も何回か聞いたことはあったのですが、今回の講演で彼が本当に言わんとしていたことがわかった気がします。
自分に残された時間をちゃんと把握して、毎日生きることってとても大事ですよね。
死を意識することで日々の生き方が変わるという人をよく目にします。「殺されかけた」「事故にあって死にかけた」など色々ありますが、みなさんその出来事を境に「もっと自分のやりたいことをして一生懸命生きよう」と意識するようになっているイメージ。
この30,000日メソッドはそのような危険な目に遭わずとも「人生の短さ」や「毎日大事に生きる大切さ」を分からせてくれるものなので、とても素敵ですよね〜。
ちなみに自分は22.5歳なので残り22,000日くらいです。やばいです。
60歳をすぎるとあまり活発に動けなくなるかもしれないと考えたら
「元気に動ける時間」は14,000日くらいです。やばいです。
最後に、世界的なビリオネアを東大に迎えて、東大以外の学生にも聴講する機会を与えてくれたことに感謝です。
自分は東大ではありませんが、世界的なテクノロジー企業のCEOの講演をこんなに間近で聞けるのは滅多にないことで、非常に貴重な時間を過ごしました。
こんな機会は滅多にないからこそ、一つだけ進行に不満があります。
最初の8分間くらいの交流会、いらなくないすか?
Drewさんが会場に到着されてから講演会の時間になるまでの8分間くらい、参加者と交流タイムみたいなのがありました。
みんなが行列をなしてDrewさんと交流しようとしてたのですが、交流したい人に対して与えられた時間が短すぎるので、結局みんな10秒くらいの自己紹介をして写真撮影しておわりみたいな”握手会状態”でした。
もともと講演会の時間が短いというのを把握していたのなら、あんな交流会はやらずに早めに開始して、1つでも2つでも多く彼の言葉を聞きたかったです。
素晴らしい機会だっただけに、Drewさんが持つ時間を最大限に活かして欲しかったなぁと、ちょっぴり残念な気持ちで会場を後にしました。
補足
補足しておくと、たまたま早く来てくださったのでセッション自体を早めに始めてもらいたかったのですが、少し調整したもののダメで、代わりに取ってもらえたのがああいうスタイルの時間だったのですが……その辺の文脈はお話ししなかったので仕方ないところですね。
— tumada (@tumada) June 4, 2018
主催者のUmadaさんからコメントいただきました。
このような事情があったそうです。
起きた出来事の背景まで考えを巡らさず感情で物事を書いてしまいました!反省!
すみませんでした!
とにかく、みなさんお疲れ様でした!
Drewさんがオススメしてたレストランを紹介して終わりにします。
DMなどお待ちしてます!